ベイザー脂肪吸引とは?文献から読み解く効果やダウンタイム

ベイザー脂肪吸引と言うのは聞いたことがあるでしょうか?

脂肪吸引を考えている方なら一度は目のしているかも知れません。ベイザー脂肪吸引の広告文句は①皮下脂肪の9割が取れる②ダウンタイムが少ない③引き締め効果があると言うものです。

しかし、実際にそのような証拠はありません。効果と言うのは医師が経験でなんとなくいいと思うという事で実証されるわけではありません。

医学論文などにより、みんながこの内容ならしっかりしていて、書いてあることも納得できるね。となって初めて実証されます。

医学的には「エビデンスレベルが高い」「コンセンサスが得られている」などと言われます。

しかし、ベイザー脂肪吸引にはそんなものはありません。この記事では、実際のベイザー脂肪吸引で上記のように言われるようになった経緯やその反論の証拠を挙げて解説します。

1、そもそも最新ではない
2、ベイザー脂肪吸引最高?その根拠となった論文がある
3、引き締めが良くなるというデータは間違いだった
4、本当はダウンタイムが従来と変わらない
5、皮下脂肪の9割が取れる訳ではない
6、出血量が少ない?
7、結果、一番重要な満足度はどうなのか?
8、ベイザー脂肪吸引は選ぶべきかどうか?
9、まとめ

1、そもそも最新ではない

ベイザー脂肪吸引が最新で非常に効果が高いような宣伝を見かけることがあると思います。

始めてベイザー脂肪吸引が論文で発表されたものが2002年(Jewell医師:Clinical Application of VASER-assisted Lipoplasty: A Pilot Clinical Study )で、日本に紹介されたのが2008年という事になっています。(形成外科 vol57 P1001)

ベイザー脂肪吸引の中で、第1世代、第2世代と言うものがありますが、機械がコンパクトになったり、コードレス化が進んだりする程度で根本的なベイザー超音波と呼んでいる部分は変わっていません。

現在は2018年です。日本に入って来てからも10年経過しています。これって最新の脂肪吸引機器と言えますか??

医療の場合は最新だから良いものとは限りませんし、時間が経ったからこそいい使い方が分ってくるような場合もありますので、最新でないから古くて悪い機械とは言いません。

2、ベイザー脂肪吸引最高?その根拠となった論文がある

ベイザー脂肪吸引を説明するうえで最もよく引用される論文が2012年の発表されたNagy医師が書いた論文です。まずはこれにどんなことが書いてあるのかを知って頂くのがいいと思います。

ちなみにこの論文はベイザー脂肪吸引の製造(販売)会社がサポートして書かれたものです

概要

この論文の研究は20人の女性に対して、片側を通常の脂肪吸引、もう片方をベイザー脂肪吸引で行ったというものです。

論文としては一重盲検試験と言うもので、患者さんには左右どちらがベイザー脂肪吸引でどちらが従来の脂肪吸引を行ったかが分らなくなっています。

3、引き締めが良くなるというデータは間違いだった

この論文によればベイザー脂肪吸引で手術を行った方が皮膚の引き締まりが良かったという報告になっています。具体的には手術後6カ月の時点でベイザー脂肪吸引では脂肪1Lあたり17パーセントの引き締め効果、通常の脂肪吸引で1Lあたり11パーセントの引き締め効果と記されています。

実は計算間違い

しかし、この発表を受けて計算間違いや、引き締め効果の測定方法(皮膚の面積の測り方)の問題が指摘されています。それを受けて、ベイザー脂肪吸引が引き締め効果があるというのは実証されてないというように考えられています。

よって、2013年には以下のようにコメントされています。

This corporate-funded study’s title promises a high level of quality. Unfortunately, however, this article’s methodological deficiencies, including error in calculations,make it unratable.

この研究はよく高いレベルで書かれたものだが、残念にも、方法論の問題や計算間違いによって、判定は不能である

*Eric Swanson Levels of Evidence in Cosmetic Surgery: Analysis and Recommendations Using a New CLEAR Classification. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2013 Nov; 1(8): e66.

以上より、ベイザー脂肪吸引には引き締め効果が強いという実証はないという事です

4、本当はダウンタイムが従来と変わらない

これも先ほど紹介したNagy医師の論文でベイザー脂肪吸引と従来の脂肪吸引を対比しています。ここについては計算間違いも、方法論の間違いも指摘されていません。

下に結果を示します。

見て頂くと分るようにほとんど差はありません。

むしろ、ベイザー脂肪吸引の方が、、、

日本ではベイザー脂肪吸引の方がダウンタイムが短いなどと宣伝されていますが、全くそのような事はありません。

5、皮下脂肪の9割が取れる訳ではない

皮下脂肪の9割と言う具体的な数字を出しているからには、9割取れるというデータがあるのかと思ってしまいがちですが、研究や論文を検索してもベイザー脂肪吸引なら9割取れると言うようなものは見つかりません。

これも証明された事実ではりません。

6、出血量が少ない?

前述のNagy医師の研究でも出血量について記されています。

ベイザー脂肪吸引では吸引100㏄あたり11.2㏄の出血量、従来の脂肪吸引では100㏄あたり14.0㏄の出血量となっています。

しかし、手術前の麻酔の注入量に差があります。ベイザー脂肪吸引の方が多く麻酔が注入されていますので、それは出血量も少なくなるでしょう。吸引量に有意差はなかったとしていますが、吸引している量もベイザー脂肪吸引の方が少なく、通常の脂肪吸引の方が多く取っていますし、それぞれ考慮に入れると差はほとんどないのではないでしょうか?

また、脂肪吸引の場合は目に見える出血量ではないため、例え出血していても吸引されなければカウントされませんし、吸引する管の形状によっても組織へのダメージや出血量が変わってくる可能性があります。

チュメセント麻酔の量が違う

脂肪吸引ではチュメセント麻酔と言って吸引する前に脂肪に麻酔をします。脂肪をふやかして取りやすくする目的や止血剤(血管収縮剤)を入れて出血を予防するためです。

これの量が多かったり、濃度が濃いと、出血は減ります。いくらでも多く出来る訳ではありませんが、出血量を比べるのであればここを同じにしておく必要があるのではないでしょうか。

仮に出血量が少なかったとして

仮に多少出血量が少なかったとしても、上記で示したように、腫れや内出血はほとんど差がありませんし、むしろ従来の脂肪吸引の方が少ないくらいです。

出血量がすくなかっという研究結果は他にもあるが、、、

ほかにも「Comparative Analysis of Blood Loss in Suction-Assisted Lipoplasty and Third-Generation Internal Ultrasound-Assisted Lipoplasty」と言う研究で①出血量が少なかった②吸引量が多かった、という報告があります。しかし、先に述べたようにチュメセント麻酔と言って脂肪をふやかすために入れた麻酔液の量が記載されておらず、これで比較できる??という内容です。

また、脂肪吸引量が多かったともありますが、ベイザー脂肪吸引で吸引した方が一見脂肪量が多く見えるだけだと考えます。その証拠に研究内の効果の写真では効果に見て分るほどの差がないのが理解できると思います。上記英語をクリックしていただければリンク先でご覧になれます。脂肪吸引の写真の上2つが通常の脂肪吸引で、下2つがベイザー脂肪吸引のようです。

7、結果、一番重要な満足度はどうなのか?

一番重要なのは「患者がどれくらいの満足度が得られたか?」という事ではないでしょうか?

これもNagy医師の研究より抜粋しますが、以下のような結果になっています。

 

ほとんど同じ、もしくは従来の脂肪吸引の方が、高い満足度を得られています。

8、ベイザー脂肪吸引は選ぶべきかどうか?

ベイザー脂肪吸引と言うのはあくまで道具の一つだと考えて頂くのが良いでしょう。技術者が道具にこだわることは決して悪い事ではありません。効果やダウンタイムにもほとんど差がなく特別悪くなるわけではありません。

自分が手術を受けたいと思うドクターがベイザー脂肪吸引でやっていればそれを受ければいいと思いますが、ベイザー脂肪吸引ありきで医師やクリニックを探すのは良い方法とは言えません。コストが高くつくだけです。

9、まとめ

広告では、引き締め効果が良くなるとか、ダウンタイムが短いなどと宣伝されていますが、この文献の一部のみ(しかも否定されている部分)を強調して、患者満足度は変わらないとか、本当はダウンタイムも変わらないという事を伝えていません。

ベイザー脂肪吸引だから効果が高いとかダウンタイムが短いと思って手術を受けるのは間違っているのです。

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