ワキガでお悩みの方の中には、手術をお考えの方も多いのではないでしょうか。
でも、どんな手術なのか、リスクはあるのか、傷跡は残るのかなど、心配なこともありますよね。ワキガの根本治療は、においの原因であるアポクリン腺を取り除くことです。
においが強い場合は、健康保険が適応になり、料金の自己負担を少なく手術することができます。
また、保険は適応されませんが、傷跡や術後のダウンタイム(回復期間)が少ない手術方法もあります。
この記事では、健康保険が適応になる基準や手術方法、それ以外のワキガ手術の種類とその効果、手術のリスクや手術後の注意点など、ワキガ手術について解説していきます。手術と聞くと、怖いイメージがあるかもしれませんが、根本治療をすれば、日頃のストレスも解消されると思います。
まずは、診察に行ってみて、医師に相談してみてはいかがでしょうか。
目次
1.ワキガの手術とは
ワキガの手術で最もよく行われる方法は「皮弁法 」と言われる方法です。この皮弁法は健康保険でも行う事が出来ますし、自由診療で行っているクリニックもあります。
皮弁法は反転剪除法(はんてんせんじょほう)とも呼ばれます。その名の通り、傷口から皮膚を裏返し、皮膚の裏側に存在するアポクリン腺をメインに剪み(ハサミ)で除去する手術です。傷の大きさは3-4㎝です 。術者によっては2㎝ほどの傷を2か所に作ったりします。
この方法は、実際に目で見ながら臭いの元になるアポクリン腺を除去しますので臭いへの確実な効果が得られます。しかし、汗に関しては再び出てくる場合もあります。
後で紹介する保険以外の手術よりも傷口が大きかったり、手術後の固定が長めに必要で日常生活を送るのに不便な時間があります。
- メリット:確実な効果
- デメリット:傷が大きい、ダウンタイム(回復期間)が長い
- 効果:大 アポクリン腺はほぼ100%なくなる
- 術後の固定:5-7日
- リスク:大 合併症の頻度は細かいものも含めて約18%
- 再発率:7.7%
- 費用:健康保険(5万円台)自由診療(20-30万円)
ワキガの手術には健康保険の適応となるものと自由診療で行われるものがあります。保険診療で行われるものは健康保険からお金が支払われるので費用を抑える事ができますが、手術の方法に制限があります。
保険適応となるワキガ手術の方法は2つあります。「皮弁法」と「皮膚有毛部切除術」です。現在「皮膚有毛部切除術」は傷への負担も大きく、引きつれなどの合併症も多いためほとんど行われていません。
「皮弁法」について述べていきます。
健康保険以外で行う手術は、傷が小さかったり、ダウンタイム(回復期間)が短かったりしますが効果も違ってきます。詳しくは4章で見ていきましょう。
2.保険の場合の手術費用
手術自体の料金は5730点(片側)です。1点は10円で換算します。
両側で換算すると114,600円になり、3割負担ですと34,380円が負担分です。しかしこれは手術のみの料金です。診察代、麻酔代、お薬代、物品代などがかかってきますので、両側でおおよそ5万円位でしょう 。入院で行うと費用はもっとかかります。
3.ワキガ手術の経過
皮弁法の特徴は確実な効果が得られるという事です。ワキガの原因となっているアポクリン腺をほぼ100%取り除く事が可能です。しかし、他の自由診療で行われる手術方法よりも経過が長くなります。
圧迫が必要
手術後は脇の皮膚を圧迫して固定する事が必要です。2-3日はグルグル巻きの圧迫をするので上半身の入浴やシャワーが出来ません。
抜糸が必要
1週間を目安として抜糸が必要になります。手術を受けたクリニックで行います。
傷口が目立たなくなるのには時間がかかる
傷口の治り方は人によってかなり差があります。しかし、皮弁法の場合は通常の手術の傷口よりも目立ちにくくなるのに時間がかかります。早くて3ヶ月、長いと1年半位の経過で目立ちにくくなります。
皮膚の色が一時的に茶色くなる
臭いの元になるアポクリン腺を除去した(皮膚を剥がした)範囲で皮膚の色が茶色くなります。1年ほどかけて薄くなってきて気にならなくなりますが、完全には元の色に戻らない場合もあります。
脇の毛がなくなる
アポクリン腺と言うのは毛の根元に付いていますので、手術後はほとんどの毛が抜けてしまいます。これは再び生えてきません。
4.ワキガ手術のリスク
リスク・合併症の頻度は細かいものも含めて約18%です。
傷の治りが悪く、処置が必要な場合がある
皮弁法の傷や皮膚は血液の巡りが悪く、治りが良くないことがあります。この場合は通院しての処置が必要になる場合があります。程度にもよりますが細かい処置も含めて20-30人に1人の位のイメージです。
傷が硬くなることがある
肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)と言って、傷が硬くなることがあります。この場合は傷を柔らかくする注射(ステロイド)を行う場合もあります。
皮膚の下に血が溜まることがある
皮膚を剥がしたところに血が溜まることがあります。この場合は早急に血を抜く処置をします。
再発することがある
再発率は7.7%と言う報告があります。
5.保険適応となる基準
まず前提として、①健康保険を扱っている病院・クリニックである事が必要です。また、健康保険を扱っていても内科の先生は手術をしませんので、②健康保険で認められているワキガの手術(皮弁法)を行っている事が必要になります。
以上を満たす病院・クリニックでワキガと診断されれば健康保険を使って手術が受けれます。
病院では問診や実際の診察(臭いのチェック)で適応かどうかを医師が判断します。よくある方法としてはガーゼテストと言って、腋に数分ガーゼをはさみ、その臭いをチェックする方法があります。シャワーを浴びた後やデオドラント剤を使用していると臭いが付かない場合がありますので、自分で臭いが気になる時間帯、例えば昼過ぎ~夕方、などに診察に行くのが良いでしょう。
ただし、デオドラント剤で臭いを抑えれるのであれば手術しなくてもよいと言う判断もあります。
6.保険以外の手術
先ほどの皮弁法(反転剪除法)ですが、健康保険を使用せずに自費診療で行っているクリニック もあります。
ここではその他の手術を紹介します。
6-1.吸引法(クワドラカット法 ローラークランプ法も含む)
脂肪吸引に準じた方法で腋の下のアポクリン腺を除去します。この中にはクワドラカット法やローラークランプ法と言うものも含まれます。これらは通常の吸引管よりもワキガ手術向きの器具を使用してアポクリン腺を除去します。
- メリット:傷が1㎝以下の小さい傷で手術可能。手術後の合併症が皮弁法に比べて少ない。
- デメリット:完全にアポクリン腺やエクリン腺を除去できない。
- 効果:中 70-80%が満足
- 術後の固定:2-3日
- リスク:小 小さな血腫(血がたまる)拘縮(硬くなる)
- 再発率:16.2%~46.9%
- 費用:10万~20万(吸引法) 20万~30万(クワドラカット法・ローラークランプ法)
6-2.超音波メスによる方法(キューサー法)
超音波の振動を利用して、組織を破砕するものです。外科や脳外科の手術でも用いられ、キューサーと呼ばれています。脂肪吸引で用いられる事もあるベイザー超音波とは違う種類の超音波です。
傷口は吸引法よりやや大きくなります。(1.5㎝)効果は吸引法よりもやや強くなり、再発率も低いとあります。
ただし、吸引法よりも皮膚へのダメージが大きいので傷の治りの遅延や火傷などの合併症の頻度がやや上がります。
- メリット:傷は皮弁法より小さく、吸引法よりも少し大きい。1.5㎝程。
- デメリット:熱を伴うので火傷のリスクが存在する
- 効果:中改善は82.4%に見られた。
- 術後の固定:4-5日
- リスク:小~中 小さな血腫(血がたまる)拘縮(硬くなる) 火傷
- 再発率:13.6%
- 費用:20万~30万
*参考文献:「腋臭症・多汗症」細川亙P89
6-3.脂肪溶解レーザーによる治療
ファイバー状の細い管を挿入して皮膚の下に照射する方法で、傷はほとんど気にならなくなります。
報告によって、照射している総エネルギーが違ったりするので正確な効果は分りません。エネルギーが多くなれば火傷などのリスクも上がります。
- メリット:傷はほとんどわからない
- デメリット:効果が不十分な事も多く、組織学的に変化なしとする文献もある
- 効果:小
- 術後の固定:1日
- リスク:小 火傷
- 再発率:不明だが頻度は高いと考えられる
- 費用:10万円前後
6-4.稲葉法
約1㎝の傷から、小さいカンナのような器具を挿入し汗腺を切除していく方法です。しっかり行えば皮弁法に近い効果が得られますが、術後の安静や合併症の確率は上がってしまいます。
主に東京都杉並区の「稲葉クリニック」で行われています。
6-5.ワキガの手術法のまとめ
色々な方法を解説してきましたが、以下の表を参考に手術法を選んでください。
費用的に抑えられて、効果が得られるのは健康保険で皮弁法を受ける方法です 。しかし、少なくても2-3日はお休みを取る必要がありますし、傷も初めは目立ちます。
「吸引法」と「超音波メス」はあまり変わらない事が下の表から分りますが、両方行っているクリニックは少ないと思いますので、皮弁法よりも簡単な手術をお考えであれば「吸引法」や「超音波メス」をお勧めします。
脂肪溶解レーザーを当てる方法もありますが、効果が少ないので、ほんとに時間がなくてお手軽な方法を探している場合以外はお勧めしません。
*皮弁法は保険診療では5万円台で可能です。
*リスク・合併症の種類についてはどの方法も同じようなものになります。ただし、頻度が違ってくるという事です。次の章で詳しく説明していきます。
7.手術のリスクと手術後のケア
ワキガの手術は全て皮膚の裏側についているアポクリン腺・エクリン腺を除去する方法です。ですので、リスクや合併症の種類も同じようなものになります。
皮弁法のように大きく皮膚を剥がすと効果も大きくなりますが、合併症の増加や安静の期間、圧迫の期間が長くなります。
7-1.手術のリスク・失敗
以下のようなものがありますが、皮弁法の一番効果が高い分、合併症の確立も高くなります。
- 傷が残る
- 血腫(血が皮膚の下で溜まる状態で、早急に除去が必要)
- 皮膚壊死(皮膚の血流が悪くなり、皮膚が一部死んでしまう状態。治るのに時間が数か月かかります)
- 傷の離解(傷口が開いてしまう)
- 脱毛(皮弁法ではほぼなくなってしまう)
- 色素沈着(腋の皮膚が茶色くなる、1年ほどで落ち着く場合が多い)
- ひきつれ感
- テープかぶれ(圧迫期間が長くなればその分可能性は高くなります)
- 術後臭(手術後に違うにおいがすると言う方が極まれにいます)
- 知覚低下(半年ほどで回復します)
7-2.手術後の注意点
手術後は安静が必要です。方法により違いますが、医師の指示に従って安静期間を守ってください。
無理に動かしてしまうと、上記のような合併症の起こる可能性が増えます。
圧迫期間中は見れませんが、1週間以内は腋の状態をチェックして、以下のような事があったら手術を受けた病院へ連絡してください。
- 膨らんでくる(血が溜まってきている可能性があります)
- 傷口が開いてないか
- 傷口から液体が出てきてないか
- 傷口以外の皮膚がただれてきていないか
皮膚の色が紫色や黄色になるのは内出血ですので問題ありません。
8.再発や後遺症の可能性と発生率
効果の大きい手術ほど、合併症の頻度は高くなり、再発率は低くなります。(上記表を参照ください)
後遺症は稀ですが、長期に残ってしまうものとして
- 1㎝以上の傷口はどうしても目に見える状態で残ってしまいますが、それより小さいものであればほぼ気にならなくなります。
- 色素沈着は1年ほどでましになりますが、残る場合もあります。
- ケロイド
- あまりにひどいひきつれ感は時間が経っても残る場合が稀にあります。
9.手術以外でワキガを治す方法
手術は効果の高い方法が多いですが、手術をしたくない方は多いと思います。
手術以外の治療法は病院・クリニックでの治療は「人前でも安心!ワキガ治療の種類・効果・値段・選び方」
セルフケアの方法は「医師が教えるワキガのセルフチェックとにおいを軽減する方法」をお読みください。
10.まとめ
おもにワキガの手術に関して解説してきました。現状としては効果を得ようとするとダウンタイム(回復期間)の長い手術が必要になります。
自分のワキガの程度を担当の医師と確認し、ライフスタイルに合わせた適切な方法を相談してください。
*文献の数字などは多汗症・ワキガについて混ざっている部分もありますが、実際の臨床上でワキガ手術の満足度と言う点で問題になるほどの違いではないので、分かりやすいように混同して書いております。
*参考文献
・Stashak AB, Brewer JD. Management of hyperhidrosis. Clin Cosmet Investig Dermatol. 2014 Oct 29;7:285-99.
・Tronstad C1, Helsing P, Tønseth KA,et al. Tumescent suction curettage vs. curettage only for treatment of axillary hyperhidrosis evaluated by subjective and new objective methods. Acta Derm Venereol. 2014 Mar;94(2):215-20
・Seo SH, Jang BS, Oh CK, et al. Tumescent superficial liposuction with curettage for treatment of axillary bromhidrosis. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2008 Jan;22(1):30-5
・Rezende RM, Luz FB. Surgical treatment of axillary hyperhidrosis by suction-curettage of sweat glands. An Bras Dermatol. 2014 Nov-Dec;89(6):940-54