『すっぴんに自信がない』『化粧の手間をはぶきたい』『目が悪くなってきてうまくメイクができない』と、アートメイクに興味をもっている方も多いのではないでしょうか?
また、アートメイクをすでに入れているけれど『除去したい』とお悩みの方もいらっしゃるでしょう。
アートメイクは健康な皮膚に傷をつける施術です。どの美容治療でもそうですが、メリットがデメリットを上回ると思われるときに選択すべきです。
皆さんが、本当にアートメイクが必要か判断できるお手伝いができるように、ここではアートメイクのメリット・デメリット、また除去についても説明したいと思います。
アートメイクのメリットだけに目を奪われ、デメリットを理解しないで行うと思わぬ後悔をする場合があります。必ずこの記事を読んでデメリットやリスクを理解してからアートメイクを行うようにしましょう。
目次
1.アートメイクとは
アートメイクとは、本来化粧をする部分の皮膚に針や刃物で傷をつけて色素を入れることで、皮膚を着色する施術の事です。『落ちないメイク』と呼ばれたりする事もあります。化粧をしなくても、化粧をしているかのような見た目でいられるので、すっぴんにコンプレックスがある方や、化粧の手間をはぶきたい方に人気です。
1-1.メカニズム
メカニズムは簡単で、皮膚に傷を付けて色素を入れていきます。針等で行うため少し痛みがあります。
1-2.アートメイクを入れられる部位
刺青のようにどこでも入れる事は可能です。
刺青が芸術性を重視したおしゃれや自己表現の一種として入れるものなのに対して、美容目的で入れる際にはアートメイクとよばれる事が多いです。メイクと言うだけあってメイクの代わりになるような所に入れる事がほとんどです。
一番人気なのは眉とアイラインでしょう。またリップやほくろ、珍しいですがアイシャドウやニップル(乳首)なども行う人がいます。
1-3.持続期間や施術間隔
アートメイクは皮膚の比較的浅い層に薄く色素をいれるため、1回の施術では色が定着しない事がほとんどですので、2週間から1ヶ月ほどあけて、2-3回施術を繰り返して色を定着させます。
アートメイクは数年で薄くなる事を目的としていますので、2-3年の経過でかなり薄くなります。しかしながら入れ方や色素の深さや量によっては数年たっても完全になくならず、残存する場合もあります。
また入れた色素は1-2年で変色してくるため、この頃にリタッチと言って、再度施術を行い色を足す方もいらっしゃいます。
“アートメイクと刺青との違い”
皮膚の浅い深いに関係なく皮膚を傷つけて色素を入れるという意味では一緒です。
よくアートメイクは刺青とは違うと言われるのですが、皮膚に傷をつけ色素をいれて着色するという意味では同じです。刺青が半永久的な効果をねらって、皮膚の深い層(真皮層)にしっかり色素をいれるのに対して、アートメイクは数年で薄くなるよう、比較的皮膚の浅い層に少ない量の色素を入れる事が多いようです。しかしながら手技によってはアートメイクも半永久的に残りますので、基本的には同じと考えてもよいでしょう。
2.アートメイクの効果・事例
アートメイクの事例です。分りやすい動画があったので下のものを参考にしてみて下さい。
3.アートメイクを必ず医療機関で入れるべき理由
アートメイクは医療行為です。安価だからとエステサロンで受けないで下さい。
以前よりエステサロンや個人宅でエステの一種の用な感覚で無資格の人がアートメイクを施術している事もあるようですが、アートメイクは人の皮膚を傷つける施術で、危険が高いため日本では医師免許を有しないものが行うのは違法です。
そのため、最近ではこのようなアートメイクを違法に行うエステサロンや個人の摘発が相次いでいます。
また、アートメイクの施術に際してこのような無資格の人が海外から個人輸入した麻酔や抗生剤・腫れ止めなどを使用している場合もあり、これも違法であるとともに安全性に不安があります
安価だからといって、エステサロンや個人宅でアートメイクを受けるのはやめましょう。トラブル時に対応できなかったり、摘発されてエステサロンが突然閉鎖する事もありえます。
国民生活センターのHPには以下のような事例が載っています。
【事例1】施術部位が化膿(かのう)した 友人の口コミで知った店で、眉のアートメイクを受けた。3回で1コース。1回目の施術は問題なかったが、2回目の施術後化膿した。皮膚科の診察を受けて、針や色素に問題がある可能性があるといわれた。いわゆる刺青と同じなので本来は医療行為だとは知っているが、医院で行うと倍の費用がかかる。顔が腫れたので仕事もキャンセルした。
【事例2】角膜に傷がついた フリーペーパーの広告に載っていたエステサロンでアイラインのアートメイクをした。施術中に痛みがあり、痛いと言ったにもかかわらずそのまま施術された。終了後、軟膏(なんこう)のようなものを塗られ、視野が曇っていると言ったら軟膏のせいだと言われ帰宅した。しかし、痛みと涙が止まらないので救急で眼科に行ったところ、角膜が傷ついていることがわかった。
4.施術の流れと施術後の経過
アートメイクにかかる時間は、麻酔30分程度、実際の施術は眉・アイラインで1~2時間ほどです。
トータルで2時間前後かかります。面積の多いリップは2~3時間ほどかかります。
以下に施術の流れを説明します。
海外の動画ですが、イメージとしては下の動画のような手順です。
4-1.カウンセリング・デザインをする
アートメイクは数年にわたって色が残存しますので最初のデザインがとても肝心です。時間とともに薄くなる事が多いですが、場合によっては半永久的に残る事もありますので、流行りにながされず、長期にわたって好めるデザインをお勧めします。アートメイクは最低限にして、普段はその上からお化粧を足す、くらいの感覚でもよいと思います。しっかりと施術者とデザインを確認しましょう。
4-2.塗る麻酔を行う
施術部位に麻酔をします。部位によって麻酔方法が変わる場合もありますが、基本的は塗る麻酔を行います。場合によっては注射の麻酔も使用します。
アイラインの場合は点眼麻酔も行います。
4-3.アートメイク施術(色を入れていく)
好みの色を選択します。
専用の針を使い、皮膚を傷つけ、色素を入れていきます。手で彫る手彫りと一定の感覚で規則正しく振動する機械を使って行う機械彫りがあります。手彫りに比べ、機械彫りは比較的力加減が一定に保たれるので均一な仕上がりになりやすく、手彫りは力加減を加減できるので濃淡をつけるのに向いており、毛流れを表現するために使われたりします。
残念ながら、日本の役所で医療機器や医薬品として認可された機械や色素はありませんので、大概は海外から輸入されている製品になります。また、医療機器などであればアメリカのFDAに認可されていると言えば一定の安心感があるのですが、アートメイクの色素の場合はFDA認可といった場合でも、化粧品として認可を受けている色素なだけで、皮膚に入れるための色素として認可を受けているものはないようです。(FDAとはアメリカの厚労省のようなものです)
4-4.冷やして鎮静させる
施術行ったところに抗生剤の入った軟膏をぬり、しばらく冷やして炎症を落ち着けます。
4-5.術後の注意事項
術後数日は赤みや腫れぼったさがでます。アイラインなどでは内出血がでることもあります。通常は数日で落ち着きます。
また1週間は薄いかさぶたが張り付いた状態で、黒く目立ちます。皮膚にばい菌が入らないよう清潔に保ちましょう。色素が落ちないように、オイルクレンジングなどでの洗顔は避けましょう。抗生剤の飲み薬や塗り薬、場合によっては腫れ止めが処方されることが多いです。
術後の洗顔や化粧は、アートメイクの内容や状態、クリニックの施術後の方針により異なりますが、例えば以下のような内容です。
- アイラインの施術の場合、コンタクトは翌日から(できれば1日交換タイプの清潔なものが望ましい)
- 飲酒や入浴は翌日以降
- 1週間はプール・温泉などは避ける
- 化粧はかさぶたがとれてから
- 洗顔は当日は施術部位は避けて。翌日以降はやさしく洗顔可能。ただし、色素を洗い流すのを避けるため1週間はオイルクレンジングは避けて行う。
4-6.2回目の施術
1~2ヶ月ほどすると色がまた少しうすくなってきますので、2回目の施術をおこなってさらに色を入れていきます。
“アートメイクを受けるのに注意が必要な人、または受けられない人”
- ケロイド体質
- 金属アレルギーのひどい人
- 糖尿病の人
- 抗凝固剤内服中の人
- 高血圧の方
- 心臓の病気のある方、ペースメーカー等を使用されている人
- 感染症をお持ちの人(B型肝炎・C型肝炎・AIDS等)
- 免疫抑制状態・易感染性の人
- アトピー症状のひどい人
- まぶたの皮膚が薄い人(毛細血管がたくさん浮いていると、にじんでしまう場合がある)
- 抗うつ剤使用・パニック症候群・メンタルクリニック等に通院されてなど、精神面で心配になることがある人
- 妊娠中・授乳中の人
上記に当てはまる方は、医療機関でドクターと相談しましょう。
5.料金
アートメイクの料金相場はクリニックによって開きがありますが、1回あたり、眉であれば5-6万円、アイライン上もしくは下で3万円程度です。
2回位することが多いですので、2回で、眉で10-12万円、アイライン上もしくは下で6万円程度が相場です。
ドクターが行っているかナースが行っているかでも値段が違ってきます。
6.アートメイクのリスク
6-1. 変色する
皮膚に入れた色素は時間とともに変化し、1年くらいで色が変色する事が多いです。黒は青みがかった色に、茶色は赤や黄色っぽい色に変色してきます。変色してくると補色と呼ばれる色をたしたりして(リタッチ)対処します。
6-2. 傷跡になる事がある
皮膚に傷をつけるので、傷跡が残る事があります。色素が入っているときは気にならなくても、色素が抜けると施術したところの皮膚が少し白っぽくなったり、へこんでみえるなど、うっすら傷跡が残って見える場合も多いです。本人も気づいていないことが多いですが光の加減やよくみると分かります。 目立つような傷になる事はあまりありませんが、ケロイド体質の方の場合は、ケロイドになる事もあります。
6-3. 感染して腫れる事がある
アートメイクでは皮膚表面に傷をつけるため、清潔に操作を行い、アフターケアをしっかりしないと、傷のところが化膿する可能性があります。また、海外では使う色素にばい菌が繁殖して感染が起こったケースもあるようです。
最近ではまずないでしょうが、針の使い回しなどをすると、肝炎ウイルスやHIVウイルスなど血液や体液を介してうつる感染症をうつしてしまう危険があります。海外など衛生面が不安な国で行う場合は注意が必要です。
6-4.角膜炎・結膜炎
特にアイラインを施術する場合、塗る麻酔や色素の一部が目に入り刺激を起こしたり、目の粘膜のかなり近くまで(粘膜側まで入れる場合は粘膜まで)傷をつけるため、目の中で炎症を起こして角膜炎や結膜炎を起こしてしまう事があります。
症状としては目が痛かったり、異物感があったり、目がかすんだように見えたりします。万が一、そのような事があれば施術を受けたクリニックへ相談して下さい。
6-5.ドライアイ
アイラインを施術する場合、まつげのキワまで色をしっかり入れる方がムラなくきれいに見えるため、粘膜側まで色素をいれる事があります。
粘膜側には『マイボーム腺』と呼ばれる、油を分泌して油膜を作り涙の蒸発を防ぐ作用のある腺の開孔口があります。この部位にアートメイクを入れて炎症が起きると、マイボーム腺が塞がり、油分を分泌する機能が落ちて涙が蒸発しやすくなり、ドライアイになる事があります。
ですので、粘膜側までしっかり色を入れるような手法ではドライアイが起こる可能性が高くなります
6-5.接触アレルギー・アレルギー性肉芽腫
まれですが皮膚に入れた色素に対してアレルギー反応がでることがあります。かゆみや赤み・腫れが起こります。
場合によっては肉芽腫とよばれる塊が出来る事もあります。化粧品などで普段からよくかぶれたり、アトピーや喘息などのアレルギー体質の人は注意が必要です。
そういったアレルギー体質の方には基本的にアートメイクはおすすめしませんが、どうしても受けたい場合には、施術前にパッチテストなどアレルギーテストを受けるとよいでしょう。
FDAで認可されていると言われている着色料も、化粧品としての認可をうけているだけで、皮膚に入れる色素として認可されている色素はありません。さらには皮膚への接触を認められていないプリンター用のインクや自動車の塗装用などの産業用グレードの色素が使われるケースもあるようで注意が必要です。
参照:FDA
6-6.MRIでやけどする可能性がある
昔は、アイラインも眉も黒い墨が使われることが一般的でしたが、最近ではアートメイクで使う色素には茶色や赤色の色をだすために酸化鉄などの金属が使われている事があります。
MRIは強い磁石のようなものを利用して体の中を見る検査です。体の中に金属が入っていると反応して、強い熱を発してやけどしたり、色素付近の部分の画像を乱して正確な診断を難しくしたりする事がありえます。そのため、金属を含んだ(特に酸化鉄)色素をつかってアートメイクをしている場合は注意が必要です。
しかしながら、命に関わる病気で精密な検査が必要な際、MRIはかかせない検査の一つで、アートメイクのやけどのリスクよりもMRIでの検査の有益性が上回ります。実際は、やけどが起こるケースはまれで、起きたとしても程度は軽いため、そのまま行われることが多いです。ただし、MRIを受ける際には必ず担当医に申し出てください。
参考文献:Tope WD, Shellock FG.Magnetic resonance imaging and permanent cosmetics (tattoos): survey of complications and adverse events.J Magn Reson Imaging. 2002 Feb;15(2):180-4.
参考:FDA
また色素の中にはMRI safeというMRI施術可能を謳った商品もあります、心配な方はできればこのような商品を使えばリスクは低くなります。
7.アートメイクの失敗
7-1.思ったデザインでない・誤った所に入ってしまった
思ったデザインでない・誤った所に入ってしまった 時間とともに薄くなるとは言え、一部残ることもありますし、一度入れてしまった色素を除去することはなかなか大変です。
施術前にしっかりデザインを施術者と話し合い、仕上がりのイメージを共有しましょう。 誤った所に入った際は、少量の色素であれば定着せずに薄くなる事もありますので、しばらく経過をみて、残るようなら除去について相談しましょう。
7-2.数年後に違う形にしたくなった
眉毛は流行によっても、また年齢によってもデザインが左右されます。
流行りのデザインや奇抜なデザインにすると、飽きてしまったりする事もありますので、アートメイクは最小限にし、時によって上からメイクを付け足すくらいの方が色々とアレンジができてよいと思います。
アートメイクをしっかりと広範囲に入れてしまうとアレンジが難しくなります。
8.アートメイクを消したい場合の方法
アートメイクを除去する場合の第一選択はレーザー治療になります。
単純な黒い色素は相性がよく、かなり高い確率で除去できますが、使用している色素や状態によっては、確実にキレイに消せるわけではありません。『レーザーに全然反応しない。』『レーザーをあてて逆に黒や緑に変色し目立ってしまう』ケースもある事を認識しておきましょう。
「危険!アートメイク間違った除去方法ときれいに除去する方法」の記事にレーザーの詳細やその他の方法など詳しくまとめていますので、アートメイクを入れる方は事前に除去についての知識も身につけてから入れるようにしましょう。
9.まとめ
アートメイクは気軽な印象がありますが、健康な皮膚に異物をいれる行為であり、危険も伴います。リスクを十分把握した上で、メリットが上回ると感じた方のみ受けるようにしましょう。
また、アートメイクを除去したい、と思う事があるかもしれませんので、除去の際の注意事項やリスクなどの知識も身につけた上で施術しましょう。施術の際には、トラブルにも対応でき、除去もおこなえる医療機関での施術を行うようにして下さい。
- アートメイクは刺青と一緒
- アートメイクを入れる前に、リスクや除去の際の注意事項もきちんと知りましょう。
- アートメイクは医療行為です。医療機関で受けましょう。
- アートメイクのデザインは色素や瘢痕が残ってしまう事も考えて、流行りに流されないようにしましょう。
著者紹介:青木由佳医師
今回の記事は、青木由佳医師に執筆頂きました。
アートメイクは簡単に入れる事が出来ますが、医療機関でないところで行われていたり、リスクもない訳ではありません。この記事では青木医師に分りやすく内容をまとめて頂きました。
以下に青木医師の紹介を致します。
経歴
2004年 神戸大学医学部卒業 神戸大学病院病院勤務
2006年~大手美容皮膚科、藤田保健衛生大学皮膚科等