顔のたるみは誰もが気にする悩みです。リフトアップしたいと願う方は多くいます。
糸のリフトは比較的手軽に、たるみをリフトアップすることができます。効果としては比較的マイルドですが、お手軽なので人気の治療です。
しかし、糸のリフトを受けようと思っても多種多様な種類があり、何がいいのか見当が付かない方も多いと思います。どの種類の糸も最新式や効果アップ!と書いてありますよね。
このように多種多様な糸の種類を分りやすく解説します。
それぞれの方のニーズや医師の好みにもより、どの糸が一番すぐれていると言う訳ではありませんが、ご自身で選ぶ際の判断に役立つように解説していきます。
目次
1、糸のリフトの種類①固定タイプと浮遊タイプ
糸のリフトには色々な種類があります。大きく分類すると、筋膜など硬い組織に固定するタイプ(アンカータイプ)と固定しないタイプ(フローティングタイプ)、もう一つの分類が引っ張り上げる部分の違いです。引っ張り上げる部分がコーン状になっていたり、トゲ状になっていたり、中には全く何も付いていないストレートタイプもあります。
下の動画では固定するタイプ(3分11秒付近)と固定しないタイプ(4分22秒付近)の2種類が図解されています。
2、糸のリフトの種類②溶けるか溶けないか
糸のリフトには「溶けるタイプ」「溶けないタイプ」があります。必ずどちらが良いと言う訳ではありませんが、多く採用されているのは溶ける方のタイプでしょう。
3、糸のリフトの種類③とげの形状
糸で引っ張り上げる訳ですから、引っかかる部分がなくてはなりません。「トゲ」状になっている部分です。これは糸の種類によって色んな形があったり、方向が違ったりします。
糸のリフトの宣伝を見ていると、引っ掛かりのトゲの形状や形が進化した、強度が数倍、何十倍にもなったというものを見かけます。果たして意味があるのでしょうか?
糸の強度やトゲの強度が増加したからと言って、引っ張られる側の人間の組織は硬くなりません。引っ張るという事は作用反作用の力が働きますから、糸やトゲの強度を一定以上のにしたところで効果は変わらないと考えます。
人間の顔は表情を作るため、非常に大きな力で動くというのもあり、手術後に後戻りが起きます。糸の強度を強めたからと言って、効果がドンドンアップする訳ではないと考えられます。
また最近は、ほとんどのクリニックで新しいのもを使っていますから、あまり差がないと考えます。
糸の種類と糸の名前の整理
溶ける糸 | 溶けない糸 | |
固定式 | ミントリフトなど | スプリングリフト、シルエットリフトなど |
浮遊式 | かなり種類多く最近のトレンド | アプトスなど |
*スプリングリフトは厳密には固定式ではありませんが、糸が太く対になる引っ掛かり部分強くかかっているので、上記に分類しています
*シルエットリフトはトゲの部分(コーン状)は溶けますが、糸の部分は溶けないので、上記に分類しています
4、どの糸を選ぶのが良いのか?
では、どの糸を選べば効果も高く、持続期間も長く、腫れが少なく、、、一番いいのでしょうか?
残念ながらその答えはありません。なかなか違う糸で比較した研究等もありませんし、糸の種類が多すぎて、入れる本数等を考えると比較研究するのは無理です。
では、何を基準に選べばよいのでしょうか?
固定式か浮遊式か
固定式の方が効果は高いと考えられます。しかし、固定式の方が腫れが大きかったり手術後の痛みが大きかったりします。また、どこにでも固定できる訳ではないので、固定部は耳やこめかみの上になりますので、引き上げれる方向が決まってしまいます。
固定しないタイプの糸は固定元が弱いので効果が劣ると考えられますが、手軽に行えます。また色々な方向に糸を挿入できるメリットもあります。
“スプリングリフト”
スプリングリフトは溶けない糸で厳密には固定しないタイプですが、ひっぱりあげる方と逆側の固定元が長く強く、固定するタイプと同様な効果を得られると考えられます。また、糸に伸縮性があり、凹み・ひきつれなどを起こしにくいと言う特徴があります。そのため、使用しているクリニックも多い種類の糸です。
スプリングスレッドリフトと言うものは、全くの別物です。
溶ける糸か溶けない糸か
溶ける糸を選択するか、溶けない糸を選択するかです。それぞれメリットデメリットがありますが、現在の主流は溶ける糸でしょう。
溶けない糸のメリット・デメリット
溶けない訳ですので、持続期間・効果は高いと考えられます。しかし、ずっと糸が引っ張り上げてくれている訳ではなく、あるところで必ず落ち着いています。しかし、溶けない糸がお顔の中に入っているので線維化という反応が起こり、癒着し、たるみにくくなると考えられます。
デメリットは、長期的に中から出てくる事や、ポコッと糸の端っこが皮膚から分ること、感染と言ってばい菌が付いて腫れる事があります(溶ける糸でも起こりますが、可能性は溶けない糸の方が高いと思います)。その場合は小さい穴を開けて取り出さなければなりません。
溶ける糸のメリット・デメリット
メリットは溶けてなくなることです。その結果、長期的に出てくる事や、ポコッと糸の端っこが皮膚から分ること、感染と言ってばい菌が付いて腫れるリスクは低下すると考えられます。
その代わり、効果が弱かったり、持続期間が弱いと考えられます。それに対応するには繰り返し施術することが可能です。と言っても数年に1回やるかどうか位ではないでしょうか。
溶ける糸の種類
溶けない糸の中にも色々種類があります。PDO、PLA、PCLと言う素材があります。
PDO | PCL | PLA | |
持続期間 | 6~8か月 | 12ヶ月 | 12~18ヶ月 |
硬さ | 柔らかい | 硬い | 柔らかい |
費用 | 安い | PDOより高い | PDOより高い |
糸の硬さや強度を比較する尺度には色々あります。ただ単に引っ張る力でも、糸が切れる力の大きさを測る尺度、引っ張って切れる時までの伸びの率を表す尺度や、一定数伸ばすのに必要な力、押された時に元に戻ろうとする力などなど、、、また相手となる人の組織によっても糸の力を出し切れるかは変化するでしょう。
現在はPDOとPCLが主流なリフトアップの糸として用いられています。持続期間が少し違いますが、費用も違い、医師によっての好みもあったりします。
以上のように、どういうタイプの糸でどのような素材の糸なのかによってたくさんの種類があります。メーカーもたくさん存在します。
5、それぞれのニーズによる糸の選び方
以上より、多少腫れてもいいし、効果は長く続く方が良いとお考えの場合は、固定式(アンカータイプ)のタイプの糸や溶けない糸を選択するのがいいと思います。
逆に、効果や持続は多少落ちても、数年後にまたやろうという方や費用を少なく済ませたい方は溶ける糸の浮遊式(フローティングタイプの糸を選ばれるのがいいと思います)
固定式で溶けない糸:スプリングリフト、シルエットリフトなど
固定式で溶ける糸:ミントリフトなど
浮遊式で溶けない糸:アプトスなど
浮遊式で溶ける糸:かなり種類が多い!
*スプリングリフトは固定式に分類しています。シルエットリフトは一部溶けますが溶けない糸に分類しています。
6、糸のリフトの効果とは
では、糸のリフトの効果はどれくらいのものでしょうか?指で顔を引っ張るほどの効果は到底得られません。
リフトアップは数字的な指標で客観的に評価するのが難しいので、色々な論文・研究でも患者満足度で計測されています。
“研究①”
- 31人の被験者 2年間の観察
- 溶けるPDOの糸(トゲなし、トゲあり両方使用)
- 61%が良い効果、21%がまあまあ、13%が効果薄い、その他不明
- 他者評価(肌質改善):42%良い効果、29%効果あり、26%まあまあ、3%効果なし
- 他者評価(リフト効果):36%良い効果、19%効果あり、16%まあまあ、29%効果なし
Suh DH.Outcomes of polydioxanone knotless thread lifting for facial rejuvenation.Dermatol Surg. 2015 Jun;41(6):720-5
“研究②”
- 39人の被験者 6カ月の観察
- 溶ける糸PDO(トゲあり)
- 89.7%の患者が満足回答
- 他者評価:10.3%非常に改善、43.6%良く改善、33.3%改善、12.8%改善乏しい
Kang SH.Vertical Lifting: A New Optimal Thread Lifting Technique for Asians.Dermatol Surg. 2017 Oct;43(10):1263-1270
“研究③”
- 35人の被験者 12か月の観察
- 溶ける糸PDO(トゲあり)
- 94.3%の患者が結果に満足と回答
- 他者評価:68.6%非常に改善、25.7%良く改善、5.7%改善
Lee H.Outcome of facial rejuvenation with polydioxanone thread for Asians.J Cosmet Laser Ther. 2018 Jun;20(3):189-192
“研究④”
- 28人の被験者 3ヶ月の観察
- 溶ける糸PDO(トゲあり 固定タイプ浮遊タイプ両方使用)
- 5段階評価 1(非常に良い効果)0% 2(良い効果)28% 3(効果あり)55% 4(不変)11% 5(悪化)0% 残りは追加治療を受け評価不能
Hyun Ho Han.
ほとんどの論文・研究が韓国からのもになります。そして、今はまだPDOの糸の報告が多く、最近増えているPLAの糸はまだ出てきていない感じです。恐らく、PDOと同等かそれ以上の効果はあると思いますが。
また日本からの研究もあり、評価方法も他者評価によるもので参考になるのですが、一般向けに解説するのが難しいので紹介だけします。リンク先の論文は英語ですが、全文閲覧可能ですので興味のある人は見てみて下さい。症例の写真も載っています。日本でも溶けない糸のリフトを中心に多くの症例を行っている先生の研究です。
7、糸のリフトの経過
ダウンタイム(回復期間)がある
手術後は腫れが出たり、内出血が出ることがあります。固定するタイプの糸ではコメカミ付近(固定部)に痛みや腫れが目立つことが多くあります。ダウンタイムとしては4-5日程度でしょう。
糸を固定しないタイプではあまり腫れも出ることなく、お化粧すればごまかせる程度になります。
直後は効果が強く出る
リフトアップ手術は手術後にどうしても後戻りがあります。ですので、手術では目いっぱい引き上げておきます。
結果、手術直後や1週間後では効果も大きくすごくキレイになったように見えますが、2-3ヶ月でかなり後戻りします。それが本来の効果なのです。上の効果に示した研究を見ても術後数カ月経ってから評価しているのが分るでしょう。
ですので、手術前後の写真を見る場合は、少なくても1ヶ月以上経過している写真を参考にしましょう。
8、糸のリフトのリスク
糸のリフトは切開リフトよりもかなりお手軽ですが、リスクはあります。
効果を感じにくい事がある
リフトをすればすごく上がると思っている方も多いのですが、残念ながらそう言う訳ではありません。確かに直後や1週間後はキレイにリフトアップしていますが、1ヶ月・3ヶ月と経過すると強い効果では何のが分ると思います。
症例写真等を見て検討する際も、早くても1か月目以降の症例を見るようにしましょう。
糸が見える、糸が出てくることがある
中に入れた糸が皮膚を破って出てくることがあります。出てきてしまえば抜くのは難しくありません。糸の先が少し皮膚から透けて見えているだけの時は、皮膚に小さい穴を開けて抜き出す必要があります。
これらの症状は待っていてもよくなりませんので、時間のある時に処置が必要です。
凹みが出ることがある
糸で引き上げているところが必要以上に凹むことがあります。通常は1-2週間で良くなりますし、長引いても徐々に良くなってきます。
しかし、中には残る場合もあるので、気になる場合は担当医師に早めに相談して下さい。
感染することがある
糸にばい菌が付いて腫れることがあります。この場合も、原因となっている糸を抜かないと繰り返す場合が多いです。腫れている間はお薬などで腫れを抑えても、また繰り返すこともあるので、時間のある時に抜いた方が無難です。
左右差が気になることがある
糸のリフトは顔の形がすごく変わってしまうような強い効果ではありません。出来るだけリフトアップしてくれるように、左右ともできる限りひっぱりあげておく訳で、あまり左右差が出ることはありません。
しかし、手術後に左右差が気になることはあり得ます。ほとんどの場合は元々ある左右差ですので、修正も難しい場合が多いと思います。
9、糸のリフトの費用
糸のリフトの費用はかなりの開きがあります。糸を固定しないタイプの糸であれば本数を少なくして10万円程度からできますし、固定タイプだと費用も高くなってきます。
また、入れる糸の本数が増えれば、費用も上がります。
本数が多く、固定するタイプのものでは50万程度まで見ておくのがいいと思います。
10、まとめ
糸のリフトはかなりの種類が出回っており、どれも一番いいように書いてあるので何を選べばいいのか分らなくなってしまうと思います。
この記事を読んで頂いた方は何となく、そう言う違いがあったのかと言うのをお分かりいただけたのではないでしょうか?あとは、ご自身でしっかり上げる固定タイプなのか、溶ける方がいいのかなどを選択して決めて頂ければと思います。